憲法 重要判例まとめ ─ 試験頻出17選
出典
- 最高裁判所裁判集(裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/)
- 判例掲載誌:最高裁判所民事判例集(民集)・最高裁判所刑事判例集(刑集)
精神的自由
1. 津地鎮祭事件(最大判昭和52年7月13日)
- 争点:市主催の地鎮祭への公費支出(憲法20条・89条)
- 判旨:
「国家と宗教との完全な分離を実現することは、実際上不可能に近く、かえって、政教分離規定の目的とするところと相容れない結果を招くことともなりかねない。…宗教とのかかわり合いが、わが国の社会的・文化的諸条件に照らし…相当とされる限度を超えるものと認められる場合に、これを許さないとするものである」
(出典:最大判昭和52年7月13日 民集31巻4号533頁)
- 結論:合憲
- ポイント:目的効果基準確立。「相当な限度を超えるもの」のみ違反。
2. 税関検査事件(最大判昭和59年12月12日)
- 争点:輸入禁制品とされたわいせつ物の税関検査が「検閲」にあたるか(憲法21条2項)
- 判旨:
「検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す」
(出典:最大判昭和59年12月12日 民集38巻12号1308頁)
- 結論:税関検査は検閲にあたらない(発表後の規制)
- ポイント:検閲の定義を確立。絶対的禁止。
3. 外務省秘密漏洩事件(最決昭和53年5月31日)
- 争点:報道機関の取材の自由と国家秘密保護の限界
- 判旨:
「報道機関の情報収集の自由も、表現の自由の保障の下に十分尊重に値するものであることはいうまでもないが、その取材の手段・方法が…法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものでなければならない」
(出典:最決昭和53年5月31日 刑集32巻3号457頁)
- ポイント:取材の自由は十分尊重に値するが、憲法21条の直接的保障は受けない。
経済的自由
4. 薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日)
- 争点:薬局開設の距離制限(旧薬事法6条2項等)と職業選択の自由(憲法22条)
- 判旨:
「消極目的のための職業の許可制について…その規制措置が右の目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまるものであるかどうかを審理判断しなければならない」「距離制限…は、不良医薬品の供給防止等の目的のために必要な規制とは認められ」ない
(出典:最大判昭和50年4月30日 民集29巻4号572頁)
- 結論:違憲
- ポイント:消極目的規制 = 厳格な合理性の基準。
5. 小売市場事件(最大判昭和47年11月22日)
- 争点:小売市場の許可規制(小売商業調整特別措置法)の合憲性
- 判旨:
「社会的・経済的弱者の保護等の積極的政策的目的のための規制については、…その判断が著しく不合理であることの明白な場合に限って、これを違憲とすべき」
(出典:最大判昭和47年11月22日 刑集26巻9号586頁)
- 結論:合憲
- ポイント:積極目的規制 = 明白性の基準。薬事法判決と対比。
社会権・生存権
6. 堀木訴訟(最大判昭和57年7月7日)
- 争点:障害福祉年金と児童扶養手当の倂給禁止規定の合憲性(憲法25条)
- 判旨:
「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委ねられており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違憲の問題を生じるものではなく、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界を超えた場合又は裁量権を濫用した場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である」
(出典:最大判昭和57年7月7日 民集36巻7号1235頁)
- 結論:合憲
- ポイント:生存権の実現は立法府の広い裁量。
7. 全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)
- 争点:国家公務員の争議行為禁止(国公法98条2項)の合憲性(憲法28条)
- 判旨:
「公務員の勤務条件の決定は、私企業の場合とは異なり、財政民主主義と相まって、国民の代表者によって構成される国会の審議によるべきものとされており…代償措置として、適正な勤務条件を保障する制度が設けられている」として合憲。
(出典:最大判昭和48年4月25日 刑集27巻4号547頁)
- 結論:合憲
- ポイント:代償措置(人事院勧告制度等)の整備が合憲の根拠。
平等
8. 尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和48年4月4日)
- 争点:尊属殺の法定刑(刑法旧200条)と憲法14条1項
- 判旨:
「尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、これを保護法益とする刑法の立法目的は、それ自体としては合理的な根拠に基づくものと解される」が、「尊属殺の法定刑は、…通常の殺人罪に比して著しく重く規定されており、…立法目的達成のための手段として著しく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しがたく、その差別は合理的な根拠に基づくものとはいいえず」違憲
(出典:最大判昭和48年4月4日 刑集27巻3号265頁)
- 結論:違憲(加重の程度が著しく不合理)
9. 非嫡出子法定相続分規定事件(最大決平成25年9月4日)
- 争点:非嫡出子の相続分が嫡出子の1/2とする民法規定(旧900条4号但書)の合憲性
- 判旨:
「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、…本件規定は遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していた」
(出典:最大決平成25年9月4日 民集67巻6号1320頁)
- 結論:違憲。2013年民法改正で嫡出子・非嫡出子の法定相続分が同等化。
統治
10. 砂川事件(最大判昭和34年12月16日)
- 争点:日米安保条約に基づく米軍駐留の合憲性
- 判旨:
「わが国が…条約を締結した場合に生ずる高度の政治性を有する問題は、…司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のもの」(統治行為論)
(出典:最大判昭和34年12月16日 刑集13巻13号3225頁)
- ポイント:統治行為論確立。「一見極めて明白に違憲無効でない限り」は審査不可。
11. 警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)
- 争点:警察予備隊設置政令の違憲確認(具体的事件なし)
- 判旨:
「わが裁判所は具体的な法律上の争訟事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するものではない」
(出典:最大判昭和27年10月8日 民集6巻9号783頁)
- ポイント:日本が付随的違憲審査制を採用していることを確認。
12. 衆院定数不均衡事件(最大判昭和51年4月14日)
- 争点:衆議院議員定数の不均衡(最大5.26対1の格差)と憲法14条・44条
- 判旨:
「投票価値の平等は…憲法の要求するところと解すべきであり、…違憲の瑕疵を帯びるというほかはない」。ただし「選挙を無効とすることによる不都合」から選挙は有効(事情判決の法理)。
(出典:最大判昭和51年4月14日 民集30巻3号223頁)
- 結論:選挙区割は違憲(ただし選挙は有効・事情判決の法理)
13. 徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)
- 争点:交通秩序維持に関する条例違反が道路交通法違反の規定と矛盾するか
- 判旨:
「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない」
(出典:最大判昭和50年9月10日 刑集29巻8号489頁)
- ポイント:上乗せ条例の可否判断基準を確立。
プライバシー
14. 前科照会事件(最三小判昭和56年4月14日)
- 争点:区長が弁護士会の照会に応じて前科を漏洩したことの不法行為性
- 判旨:
「前科及び犯罪経歴は、人が、みだりにこれを公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」
(出典:最三小判昭和56年4月14日 民集35巻3号620頁)
- ポイント:前科情報はみだりに公開されない利益として法的保護を受ける。
私人間効力
15. 三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)
- 争点:企業が思想信条を理由に本採用を拒否したことが憲法14条等に違反するか
- 判旨:
「私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体を直接規律することを目的とする法規がなく、ただ、私的自治の原則が支配し…民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、調整されるべき」
(出典:最大判昭和48年12月12日 民集27巻11号1536頁)
- ポイント:間接適用説(通説・判例)を採用。
判例一覧表
| 判例 | 関連条文 | 結論 |
|---|---|---|
| 津地鎮祭事件(昭和52年) | 20条・89条 | 合憲(目的効果基準) |
| 税関検査事件(昭和59年) | 21条2項 | 検閲にあたらない |
| 薬事法違憲判決(昭和50年) | 22条1項 | 違憲(消極目的・厳格な合理性) |
| 小売市場事件(昭和47年) | 22条1項 | 合憲(積極目的・明白性基準) |
| 堀木訴訟(昭和57年) | 25条 | 合憲(立法府の広い裁量) |
| 全農林警職法事件(昭和48年) | 28条 | 合憲(代償措置) |
| 尊属殺重罰規定(昭和48年) | 14条 | 違憲(加重の程度が不合理) |
| 非嫡出子相続分(平成25年) | 14条 | 違憲(子の不利益は不合理) |
| 砂川事件(昭和34年) | 9条・98条 | 統治行為論(司法審査になじまない) |
| 衆院定数不均衡事件(昭和51年) | 14条・44条 | 違憲(事情判決の法理) |
| 徳島市公安条例事件(昭和50年) | 94条 | 条例と法令の矛盾抵触の判断基準を確立 |
| 三菱樹脂事件(昭和48年) | 14条・22条 | 間接適用説(私的自治尊重) |